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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)88号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告がその取消事由として主張するところは、以下説示するとおり、理由がないものというべきである。

原出願の発明の要旨が本件審決認定のとおりであること、原出願の発明と本願発明との間に本件審決認定のとおりの相違点(本願発明が、本件審決の指摘する(A)、(B)及び(C)の構成を有するのに対し、原出願の発明にはこれらが存在しない点)と共通点(両者ともに(d)の構成を備えていて、これを含めたその他の構成において両者は共通していること。)が存することについては、原告の認めるところ、右原出願の発明の要旨に成立に争いのない甲第九号証の二(原出願当初の明細書及び図面)、第一〇号証(昭和四九年六月四日付手続補正書)、第一一号証(昭和五二年五月一〇日付手続補正書)及び第一二号証(昭和五三年五月一九日付手続補正書)を総合すると、原出願の発明は、照明装置、具体的には、照射しようとする被照明物体に「相対的なランプ及び関連する反射器の配列の改善に関するもの」(原出願の明細書第一頁第一二行ないし第一三行)であり、「高速度動作に適して居り且つその調時順序を変化させて可変速の出力を与えうる自動コピア/複写器に於いて複写しようとするオリジナルを照射する為の光学装置と共に使用するのに特に適し」(同第一頁第一四行ないし第二頁第二行及び甲第一一号証二枚目第七行ないし第九行)たものを得ようとするものであつて、原出願の発明の目的は、<1>複写器の「中に使用されているランプに最大の性能を発揮させる様な一般の複写用途及び可変時間順序での高速度複写用途に適した照明装置を改良する事」(同第四頁第一行ないし第三行)、<2>「暗い点及び明るい点が実質上除去される様に偏平な物体に対する照明装置を改良する事」(同第四頁第四行ないし第五行)、<3>照明装置「によつて発生された光線が照射しようとする物体上へ導かれる時に像平面に於いては一様な照明を与える様に照明装置を改良する事」(同第四頁第六行ないし第八行)及び<4>「最大の明るさ及び最小の電力で像平面における一様な照明を達成する様にランプを配列することによつて長いランプを使用する照明装置を改良する事」(同第四頁第九行ないし第一一行及び甲第一一号証二枚目第三行ないし第四行)にあり、これらの目的を達成するために原出願の発明の要旨(昭和五三年五月一九日付手続補正書により訂正された特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したことが認められる。そして、前掲甲第九号証の二第一〇号証及び第一一号証によれば、原出願の明細書及び図面に原出願の発明の実施例として記載されているのは、一例のみであり、発明の詳細な説明においてもその唯一の実施例について添付図面に基づく説明がなされているところ、これによつて理解できる原出願の発明の実施例は、「各々が光源及び反射装置を有する少なくとも二個の細長い照明装置から構成され(第2図及び第4図参照)、上記各反射装置は凹面部と少なくとも一つの平板部とを有する反射面を有し(第2図及び第4図)、上記照明装置の各々は物体の被照明領域の少なくとも二つの対向する縁の付近に上記物体に沿つてそれぞれ配置され(第4図参照)、上記反射面の平板部は、上記光源からの直接光を受けそれを上記物体に向けて反射するために上記光源と平行且つそれの近傍に配置され(第4図参照)、上記反射面の凹面部は、上記光源からの光を受けそれを上記物体に向けて反射するために上記光源と平行且つそれの近傍に配置され(第4図参照)、上記反射面の凹面部および平板部は、該凹面部が上記光源からの光線の一部を上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けて反射し、また、上記光源からの光線の残りの部分を上記平板部に向けて反射し、そして各平板部からの反射光が上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けられるように構成され(第4図参照)(本件審決が相違点(A)として認定した構成)、上記各照明装置は、その長手軸線が上記物体縁の外側に位置すべく配置され(第2図及び第3図参照)、且つ上記物体面上の照度が、上記反射面の凹面部の向きと上記物体および上記光源に対する上記反射面の平板部の傾きによつて、最も近い縁からそれと対向した最も遠い縁へゆくにしたがつて減少するように配置されており(第4図参照)、それとともに上記物体中心からその縁へとゆくにしたがつて増大するように配置されており(第4図参照)(本件審決が相違点(B)として認定した構成)、更にまた上記照明装置は、上記各照明装置からの光線による上記物体面上の上述照度変化が各照明装置ごとに実質的に等しくなるように配置され(第4図参照)、上記照明装置の上述配置によつて上記物体面が照度変化の対称性をもつて不均一に照明される結果(本件審決が相違点(C)として認定した構成)、上記物体の像が投映レンズによつて形成される像平面における合成照度が実質的に均一となる(本件審決が原出願の発明と本願発明に共通な構成(d)として認定した目的ないし機能的構成)ようにした照明装置」に関するものであることが認められる。他方、成立に争いのない甲第二号証(本願明細書及び添付図面)及び第三号証(昭和五六年一〇月二日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、前示認定に係る原出願の発明の目的<1>ないし<4>と同一の目的(本願明細書第三頁第一五行ないし第四頁第九行)を達成するために前示本願発明の要旨(昭和五六年一〇月二日付手続補正書により訂正された特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したものであること、並びに本願発明の唯一の実施例は、前示認定に係る原出願の実施例と同一であつて、明細書の発明の詳細な説明における実施例についての説明内容は、原出願に添付されたものと同一の図面に基づいた記述であり、原出願の明細書の記載内容と実質的に変わらないものであることが認められる。そして、本願発明の特許請求の範囲の記載と原出願の発明の特許請求の範囲の記載を対比すると、本願発明の特許請求の範囲の記載のうち、「上記反射面の凹面部および平板部は、該凹面部が上記光源からの光線の一部を上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けて反射し、また上記光源からの光線の残りの部分を上記平板部に向けて反射し、そして各平板部からの反射光が上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けられる」(本件審決のいう構成(A))との記載、「それとともに上記物体中心からその縁へとゆくにしたがつて増大するように配置されており」(本件審決のいう構成(B))及び「上記照明装置の上述配置によつて上記物体面が照度変化の対称性をもつて不均一に照明される」(本件審決のいう構成(C))との記載が原出願の発明の特許請求の範囲に記載されていない点のみで相違し、その余の構成はすべて共通している(以上の点は、原告の認めるところである。)ところ、右の特許請求の範囲の記載の相違点に前示認定に係る実質的に同一とみられる各明細書の記載内容を総合すると、いずれの発明も、特許請求の範囲に記載された各構成が密接不可分に結合された全体としての構成によつて前示認定のような目的を実現し得るものであり、そのために、共通な事項として「物体の像が投映レンズによつて形成される像平面における合成照度が実質的に均一になる」ようにする構成(本件審決がいう構成(d))が求められていることが認められる。したがつて、原出願の発明においても、本件審決のいう構成(d)を生じせしめるために本願発明の特許請求の範囲に記載された前記(A)、(B)及び(C)の構成が包含されているものと認められる。翻つて、原出願の明細書に記述された実施例の具体的構成と本願発明の構成とを対比してみると、既に認定説示したところからも明らかなように、本願発明は、原出願の明細書記載の実施例の構成に基づいてその具体的な各構成要素を発明の構成要件として採択したものにすぎないものと認めざるを得ない。この点について、原告は、原出願の発明には、前記(A)、(B)及び(C)の構成が欠けているから、所期の目的を達成することができない旨主張するが、前記説示のように原出願の明細書及び図面に記載された実施例には、前記(A)、(B)及び(C)の構成が明示されているのであるから、特許請求の範囲に明示の記載がないとしても、原出願の発明は、前記構成(d)を得るためにも、(A)、(B)及び(C)の構成若しくはこれらに相当する構成の存在を当然の前提としていたものとみるべきであり、原出願の明細書及び図面についての原告の解釈は正当なものとはいえず、これを前提とする原告のこの点の主張は到底採用できない。右に検討したところから明らかなように、本願発明は、原出願の発明に包含された、その実施例に沿つたより具体的構成を規定した発明と理解すべきものであるから、本件審決が、原出願の発明と本願発明とが同一であつて、本出願は二以上の発明を包含する特許出願の一部を出願したものではなく、特許法第四四条第三項の規定による出願日の遡及は認められないとし、本出願の出願日を昭和五四年七月五日と認定判断したことには何ら誤りはない。なお、原出願は、本出願がなされた同日に取り下げられているが、本出願が適法な分割出願として出願日の遡及が認められるか否かを判断するには、改正前特許法第四四条第一項の規定に該当するか否かが判断されるべきものであり、これに該当しない限り出願日は遡及しないのであつて、このことは原出願が取り下げられたことによつても変わるものではない。そして、引用例(これが本出願前にドイツ連邦共和国において頒布された特許明細書であることは、原告の明らかに争わないところである。)記載の発明が本願発明と同一の発明であることは原告の認めるところであるから、本願発明が、特許法第二九条第一項第三号に該当するとした本件審決の判断は正当であり、本件審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編証その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

原告は、昭和五四年七月五日、名称を「照明装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について、昭和四五年三月二六日にした特許出願(昭和四五年特許願第二四九四二号。以下「原出願」という。)を昭和四四年法律第九一号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第四四条第一項の規定により分割して特許出願(昭和五四年特許願第八五四九九号。以下「本出願」という。)をすると同時に原出願を取り下げたところ、昭和五六年五月二六日、本出願について拒絶査定を受けたので、同年八月二五日これを不服として審判を請求(昭和五六年審判第一七六七四号事件)したが、昭和五七年四月一九日「本件審判の請求を却下する。」旨の審決がなされた。原告は、昭和五七年一〇月一三日東京高等裁判所に右審決の取消請求訴訟を提起し、昭和五七年(行ケ)第二一六号事件として審理されたが、昭和五八年二月二八日、「特許庁が昭和五七年四月一九日に同庁昭和五六年審判第一七六七四号事件についてした審決を取り消す。」旨の判決がなされ、同判決は確定したため、特許庁において再度審理されたところ、昭和五八年一〇月二〇日拒絶理由の通知がなされ、昭和五九年一二月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、昭和六〇年二月二日原告に送達された(出訴期間として九〇日附加)。

〔編註その三〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

各々が光源及び反射装置を有する少なくとも二個の細長い照明装置から構成され、上記各反射装置は凹面部と少なくとも一つの平板部とを有する反射面を有し、上記照明装置の各々は物体の被照明領域の少なくとも二つの対向する縁の付近に上記物体に沿つてそれぞれ配置され、上記反射面の平板部は、上記光源からの直接光を受けそれを上記物体に向けて反射するために上記光源と平行且つそれの近傍に配置され、上記反射面の凹面部は、上記光源からの光を受けそれを上記物体に向けて反射するために上記光源と平行且つそれの近傍に配置され、上記反射面の凹面部および平板部は、該凹面部が上記光源からの光線の一部を上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けて反射し、また上記光源からの光線の残りの部分を上記平板部に向けて反射し、そして各平板部からの反射光が上記被照明領域と実質的に同一の領域に向けられるように構成され、上記各照明装置は、その長手軸線が上記物体縁の外側に位置すべく配置され、且つ上記物体面上の照度が、上記反射面の凹面部の向きと上記物体および上記光源に対する上記反射面の平板部の傾きによつて、最も近い縁からそれと対向した最も遠い縁へとゆくにしたがつて減少するように配置されており、それとともに上記物体中心からその縁へとゆくにしたがつて増大するように配置されており、さらにまた上記照明装置は、上記各照明装置からの光線による上記物体面上の上述照度変化が各照明装置ごとに実質的に等しくなるように配置され、上記照明装置の上述配置によつて上記物体面が照度変化の対称性をもつて不均一に照明される結果、上記物体の像が投映レンズによつて形成される像平面における合成照度が実質的に均一となることを特徴とする物体を照明し且つその物体からの光線を像平面上へ投射するための照明装置。

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